2005.05.15

『それでもあなたに恋をする エネアドの3つの枝』

それでもあなたに恋をする
雷雨だか雹に気づかず読了。コバルトで中世西欧ふう異世界ファンタジーなので、そのテがダメな人には向きませんヨ。しかしそのテとしては到達点のひとつかもなあ、と思うのは。最近ハーレクインロマンスが読めるようになり(恋愛以外に何か起きる話に限られますが)、中でも特にヒストリカルをさんざっぱら読んだからなのだろう。
いや、ヒロインが寂しさを紛らわすために食べてしまうのだけれど、それはそれと開き直れず、辛い目にあったところで一念発起、痩せてきれいになって再登場するところからハナシが始まる、というのは実にお約束、おきまりのパターンである(笑。
何でぇ、お約束かい、と言うなかれ。お約束を期待する読者が、それを見事にこなした上で面白い作品に魅了され、喜んで次も買うからハーレクインは出続けベストセラー作家も輩出されるのだが、それはさておき。
種類は違うがコバルトにもお約束は存在する。ハーレクインとの差は、破天荒なほど部数がのびる傾向が見受けられるあたりか。まあそれはアニメ後、ライトノベル既成ジャンル後の読者層が主に買い支えているからこその独特のカラーで、ロマンスとしてウェルメイドと感じられる、バランスのとれた作品は、いまひとつの感があるのだ。
著者は《楽魔女》シリーズ以前にも『太陽の石 月の石』など、バランスが心地よい作品をものしていたのだが。本作でもそれは健在だ。ヒデえことを言ってくれた少年のことを忘れられず、意識すればするほどそらごとを言いジタバタしつつも、出自のつとめを忘れないヒロインの、いっそ純朴といっていい思いやる心を忘れないエピソードを積み重ねる手際、そして重ねすぎないところが心地よい。
「三つの枝」の残りふたつとおぼしき女友達キャラに大ヒットシリーズ《楽魔女》の香りが感じられ、これはコバルト的にもイケるんじゃないかなあと思うのである。ま、期待大な感じ。

『それでもあなたに恋をする エネアドの3つの枝』
樹川 さとみ/木々
コバルト文庫/集英社 2005年5月
540円 ISBN:4086005948
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2005.02.20

『熊の場所』からとりかかる。

荒れ模様の土曜、いや春めいていた木金との落差も大きかったが、もうキャンセルきかないこの日に限ってこの天気ってどうよ、な感じで。綿入れロングコートだとガシガシ歩けば体温は上がるが寒風でハナが垂れる。あああ。
無事電車に間に合い、持参の本を開けば、舞王城太郎なのである。『熊の場所』である。はまってる友人が貸してくれたもの。ありがたや。

ううむ、結局、ドライヴ感なのかなあ、と。自分的感想はそれに尽きる。いや言葉の意味もよくわかんなくて使ってるわけですが。まあ、読み手のコンディション問わないであろう読み進みやすさ、どこかに連れて行かれ感では近来にない強さで面白かったです。結末の放っとかれ感も、まあこの長さ(中編まで)ならヨシ。
ドライヴとくれはグルーヴ、タメとモタりとどう違うの、って、そのへんがないと、もっと長い話は厳しいですな。あたりまえだけど。

乗り換えうまくいって読了できず、残り5%で到着。いや吹きさらしで待たずに済んでほんとうに良かったけど、もう残りが気になって気になって。人前で読んでしまい「可愛い本ですね」と話題をフられ、返答に窮する。いやタイポでピンクのテディベアのカバーにね、なっておるわけですよ。でも中味がナニですから(絶叫。白昼公衆の面前では詳説できませんでした。残念。

『熊の場所』
『熊の場所』舞城王太郎
講談社ノベルス/講談社 2004年12月
819円 ISBN:4-06-182407-4
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2005.02.16

『アフターダーク』、闇のむこう。

今更だが『アフターダーク』を読む。「雲のむこう、約束の場所」に明示されていたので気にしていたら、友人が貸してくれたので。いや持つべきは友。
始まりはまだ闇のさなかである。東京のどこか、どことも知れぬ街の夜の「この」世界を言葉は細部まで描いていくが、その細部に意味は生じない。どの支店もおなじファミリーレストラン、料理はどこで何を糧として育ってきたか見当も付かない食材で作られている。「トーストをカリカリに」することすら叶わないほどマニュアルどおりに。
ただそこが都会で、終電もない深夜であるというだけで、凡庸な読者には非日常ではあるのだが、ともあれ、そこが作品中の「この」世界だ。深夜のファミレスで小難しい本を読んでいる女子高校生が徹底的に地味づくりで、すいっと同席してしまう男が徹夜練習を控えたアマチュアミュージシャンである、というような細部がハルキっぽさかなと思いつつ読み進む。
そしてここではないどこか、「向こう」の世界がある。作中触れられる映画「アルファヴィル」のように、理解を絶した、白い光と黒い闇のおりなす、ブラウン管の堅い表面にへだてられているはずの世界が、徐々に「この」世界を侵食してくる。読者の関与を許さないまま。
あたりまえだ、これは小説なのだから。
しかしその読者視点を意識させるカメラ視点の隔絶感をも取り込んで、侵食は巧みに描かれる。
映画と同じ名前のホテル、同年代で毛色も肌色も同じなのに、二度と触れ得ないであろう異国人の娼婦。プリペイドケータイの向こうで、相手構わず威嚇する声。目ざめぬ美女の、とざされた眠り。
その過程、そして希みを読みとらせるしめくくりは流石だと思うが。
そこに至る動因が説教なのには、いささかがっくり来たワタクシでした。いやまあ、いや結末まで至れば、この作品に幻想的な深部はないのだと分かるし、整合するんだけどね。
まあこの長さなら、描写に付き合うのも悪くない。でも自前で1470円はちょっと無理(汗。

『アフターダーク』
『アフターダーク』村上 春樹
(四六判)/講談社 2004年9月
1470円 ISBN:4-06-212536-6
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2005.01.09

『天使』の一瞬の感触。

『天使』佐藤亜紀
文春文庫/文芸春秋 2005年1月
620円 ISBN:4167647036
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先日、親本のハードカバーを図書館で借りて読了はしているのだが、手元におきたくて返したくなかった気持ち大だった。折良く文庫になったので迷わず購入。
いや、いつに変わらず素晴らしい。第一次大戦の時代、黄昏のオーストリアの凋落が、緻密な描写の上に築かれる。しかもこの重厚さが、特殊能力持ちの秘密工作員の攻防の物語を支えているのだ。
いやはや、さっさと『雲雀』にとりかかればいいものを、読み始めて読み終わるのが惜しかったり。

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2004.12.23

『ラス・マンチャス通信』

ラス・マンチャス通信平山 瑞穂著
(四六判)/新潮社 2004年12月
1470円 ISBN:4-10-472201-4
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第16回ファンタジーノベル大賞受賞作。
やらなきゃいかんことがある時に限って読書ははかどるもので、到着後すみやかに読了。主人公が施設に収容されるあたりで冒頭の「アレ」は実は「アレ」でないのでは、と思ってしまうともう止まらない。いや、何やってんだか。
「アレ」の異形もさることながら、主人公とその家族の対応も相当なもので。異形とのギャップを感じさせるに足る日常や凡庸の書き込みはしっかりしているのだが、それが日常に思えるのはそう読めるだけで、じつはかれらは異形の世界に生きているのではないかと思えてくる。
ラス・マンチャスとは双方向の異形世界の名ではないかと。
(作品中での意味づけは全然違います。つまり思いこみ(汗))
ファンタジーノベル大賞はこういう名前だけど、この選考委員に読んで欲しい小説の賞なんであって。市場で売れてるファンタジーとは関係ないんだよな、やっぱり。と今更ながら思いました。
いや、だからチェックやめないんですけどね。

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『暁天の星 鬼籍通覧(1)』

暁天の星 鬼籍通覧(1)椹野道流/山田ユギ
講談社X文庫ホワイトハート/講談社 2004年12月
725円 ISBN:4-06-255768-1
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はっと気が付いたらシリーズ長くなってて、手を出しかねてた作家さんなんですが。新シリーズだってんで、書店でパラ見して気に入ったので買ってみたもの。主人公はビジュアル系?らしいんですけど、脇キャラのメインが地味な女性、しかも法医学者だったのも大きかったかな。ちょろりとボーイズラブっぽい味付けはありますが、味付けだけ。
中味はまあ法医学教室を舞台にした謎解き、ちょっと不思議、って感じです。解剖の描写はわりと具体的なので、そういうの苦手な人には向かないかな。わたしはあまりリアルに想像しないほうなので、世話物系の手慣れた感じで、スルリと読了。いや楽しめたんですが。
長編にするには職掌から踏み出さなきゃいけない、それはわかるけど……ちょっとここまでは、というモヤモヤはいかんともしがたい。いや、好みの問題だと思いますがね。

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2004.12.22

『わたしたちは天使なのよ! 放課後のファンタジスタ』

わたしたちは天使なのよ! 放課後のファンタジスタ久美沙織/船戸明里
EX novels/スクウェア・エニックス 2005年1月
966円 ISBN:4-7575-1348-8
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久美さんの魔法学校ものだ、と思ったら、なんだ育センの新刊じゃないのね(少なからず落胆。
今度は魔法少女たちでした。その名も聖少女騎士学園、階級は天使の階梯と、なかなか美々しい道具立て、きららかな名前のお茶から始まる話に、久美さんの少女ものはこうじゃなくちゃと頷いてみたり。いや丘ミキは年喰ってからまとめ読んだクチですが、しばらくハマってましたから。
魔女という名につきまとうもろもろにうち勝ってきた先生たちの名前とセリフに思い出すものはありつつ、話の本筋はたぶん聖少女騎士たる少女たちがそれぞれに階梯をひとつもふたつも上がるほうにあるんだと思うわけで。
魔法の力と向き合う育センと比べると、学園内の人間関係に重点があって、ハナシが小気味よく進みます。ほんと、ハリポタが英国児童文学の学園ものの末裔ならば、天使ちゃんたちはただしく日本の少女小説の発展系なんだなあ、と思いました。
それがなぜファンタジスタなのかは……読んでのお楽しみ(笑。
うん、続きがあるならこっちを先に読みたいかもだ。いやあっちも読みたいけど。

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『今日も元気に魔法三昧! マジカルランド13』

今日も元気に魔法三昧! マジカルランド13R・アスプリン&J・L・ナイ/矢口悟訳
ハヤカワ文庫FT/早川書房 2004年12月
630円 ISBN:4150203768
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ああ、自分つくづく長編型と見つけたり。
いやこの本、新しく再スタートする長編シリーズの小手調べ短編集っていうか、おなじみの面々の活躍が3篇収録されてて、いつに変わらぬ笑える話、なんですが。
今までワタクシいかに大ネタの進展に引っ張られてきた読者かよく分かるダメっぷりで、オゥズ師匠登場までにメゲそうになりました。ていうかマッシャ喋りが決定的だったかも(汗。
水玉画伯のイラストに惹かれてこれから読んでみようかな、という人は、迷わず1巻『お師匠さまは魔物!』に突撃すること(汗。

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2004.12.21

『ゲド戦記外伝』

ゲド戦記外伝ル=グウィン/清水 真砂子訳
(A5判)/岩波書店 2004年5月
2310円 ISBN:4001155729
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かなり今更ですが価格もありで手をだしかねていたので、読まずに年越すよりはと図書館で。
なんでだか知りませんが本国での発表順と、邦訳の順が逆になっていて、邦訳5巻「アースシーの風」を読んだ時から気に掛かってはいたのですが。
そりゃないよ的気分になりますな、邦訳6巻の外伝を読むと。
作者によるまえがきと、短編が5本、最後にやっぱり作者によるアースシー解説がついたこの短編集には、三部作までの方向性とはちがうもの、世界のチカラを目前にしたヒトの見せる揺らぎや澱み、引き波のようなものが感じられる。
なぜわざわざ4で壊すかとまで読者に言わせた三部作の完成度を思えば、あってはならない要素だし、むしろ本筋の外にあり、切り捨てねばならない枝葉とも言えるだろう。
いやワタシに理解可能なのは自我の物語である探求の1と奪回の2までなので、三部作といっても2までのことしか念頭にないのであるが、それはそれとして。
しかし4まで読み進んだ目には、ゆらぎはけして些末事ではない。邦訳6では、作者の内面から醸成され、アースシー世界のうちにあらわれて豊饒の証左ともなる。その過程を追体験できるようにさえ思うのだ。
だから4のあとに邦訳6の外伝を読めていればなあ、と思うのだ。いやはや。
4→邦訳5じゃ、いくらなんでも唐突ですよ。止むに止まれず壊したあと、いきなり、なんでもありで好きなようにするわ、になっちゃうわけで。今更短編集読んでもなあ、と思っていたのはまあ読み始めるまでの話。

なにしろ邦訳6を読み進むだに、じんわりと、1作目2作目が、なんだか玩具のスノーボールのように思えてくるのだ。いつでもひっくり返せば現れる雪景色のように、読み返せばあの2冊はいつでも不壊のきらめきを見せてくれるだろう。しかし、玩具は玩具だ。
もちろんこの硝子玉のなかの雪景色が唯一無二であった時代に戻してくれろと、ダダをこねる部分がありはするのだが。

というわけで4まで読んでしまった人は借りてでも読めな感じで。

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2004.12.19

『封印作品の謎』

封印作品の謎安藤健二
(B6判)/太田出版 2004年10月
1554円 ISBN:4872338871
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ある作品が受け手の誰かの心の中に忘れがたく残っているとする。見た当時の思い出も含めて、受け手にとっては、とても大切に思えるものだが。
その価値は誰かが見て記憶して、はじめて生まれるものなのだ。
作る側にとっては、忘れがたい作品もあるだろうが、仕事として作ったもののひとつなわけで。唯一無二と抱えていては次は作れないのだ。

いや、まあ、ぼんやりと『封印作品の謎』を手にとってしまったわけで。
見る側の思い入れは作り手の現実の前に少なからず空回りするものだ。
この本も例外ではなかった。
そして封印の謎は謎のまま終わっている。そういう印象をうけた。

著者は1976年生まれで、怪奇大作戦やウルトラセブンの本放送を知る由もない。長じてから封印作品の存在を知った世代のひとだ。
なぜ、そうなったのか、どこが問題だったのか、封印された中味と、その発端となった事態について、ある程度は解明されている。が、取材を続けるうち、封印にぶつかってどうしようもなくなるところを、著者は省略せずに書いている。残念ながら、ないないづくしの印象が強い。

ただまあ、知らずに騒ぎ、オークションで高値を付けてしまうような愚を避けるに、取材の経過記録も含むドキュメントとしては貴重な記録ではあろう。

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