『それでもあなたに恋をする エネアドの3つの枝』
雷雨だか雹に気づかず読了。コバルトで中世西欧ふう異世界ファンタジーなので、そのテがダメな人には向きませんヨ。しかしそのテとしては到達点のひとつかもなあ、と思うのは。最近ハーレクインロマンスが読めるようになり(恋愛以外に何か起きる話に限られますが)、中でも特にヒストリカルをさんざっぱら読んだからなのだろう。
いや、ヒロインが寂しさを紛らわすために食べてしまうのだけれど、それはそれと開き直れず、辛い目にあったところで一念発起、痩せてきれいになって再登場するところからハナシが始まる、というのは実にお約束、おきまりのパターンである(笑。
何でぇ、お約束かい、と言うなかれ。お約束を期待する読者が、それを見事にこなした上で面白い作品に魅了され、喜んで次も買うからハーレクインは出続けベストセラー作家も輩出されるのだが、それはさておき。
種類は違うがコバルトにもお約束は存在する。ハーレクインとの差は、破天荒なほど部数がのびる傾向が見受けられるあたりか。まあそれはアニメ後、ライトノベル既成ジャンル後の読者層が主に買い支えているからこその独特のカラーで、ロマンスとしてウェルメイドと感じられる、バランスのとれた作品は、いまひとつの感があるのだ。
著者は《楽魔女》シリーズ以前にも『太陽の石 月の石』など、バランスが心地よい作品をものしていたのだが。本作でもそれは健在だ。ヒデえことを言ってくれた少年のことを忘れられず、意識すればするほどそらごとを言いジタバタしつつも、出自のつとめを忘れないヒロインの、いっそ純朴といっていい思いやる心を忘れないエピソードを積み重ねる手際、そして重ねすぎないところが心地よい。
「三つの枝」の残りふたつとおぼしき女友達キャラに大ヒットシリーズ《楽魔女》の香りが感じられ、これはコバルト的にもイケるんじゃないかなあと思うのである。ま、期待大な感じ。
『それでもあなたに恋をする エネアドの3つの枝』
樹川 さとみ/木々
コバルト文庫/集英社 2005年5月
540円 ISBN:4086005948
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