『バカの壁』(養老孟司/新潮新書)の作る壁。
なぜか『バカの壁』[bk1 Amazon]を読む。いやまあ、家人が図書館で借りてきただけなんですけど。
「話せばわかる」というのはただの思いこみで、見ても理解しない、聞いてもわからない壁のようなものを周囲に作ってしまっている人間が最近多いのはなぜか、というのが問題提起であるのだが。
養老孟司は大脳生理学の専門家なので、世間一般で捉えがたいとされている人間の特質を生理的定性的、可能なら定量的に意味づけてみせるのが著作では本芸である。本書でも、たとえばイチローと一般人の反応速度の差を、修練ではどうにもならない、生来的な差の例として提示してみせる。
ここでたぶん、止まってしまう人が結構多いのではないか。
つまり、人間には生まれつき能力差があるので、俺様には自明でも、ちっともわからんやつがたくさんいる、バカの壁が歴然と存在するのだ、という俺様結論に到達して、そこで読むのをやめちまうんではないか、と思えてくる。
げにもこれこそ、バカの壁ならん。
語りおろしという形式だけに意見の部分は分かりやすいのだが、またそれが「はいはい分かりましたから」的な、壁を作りやすくもしているのだな。論証の部分は語り形式のせいでかえってしち面倒になっており、予備知識ゼロだと理解にかなり根気を要すると思えるのに。
なんとか最後まで読むと、「みんないっしょに同じこと」「話せばわかる」「世界は変転するが自己は不変」という適応的な行動様式と無思考状態の作った壁を乗り越え、人間も生き物だから個体差があるんだし、種類は同じでも違うんだって認識を前提に、あたらしい「ほどほど」の概念というか、共通理解を模索しましょう、という、しごくまっとうなことを言っていると思えるのだった。
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