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2003.07.07

『ルナ』三島浩司/徳間書店

 『ルナ―Orphan’s Trouble』を読みながら考える。切り取って見せるということ、それも表現ではあるのだと。
 日本SF大賞新人賞受賞作である。ネタとしては厄災もの。
 マリアナ諸島近海に落ちた隕石からと思われる正体不明の熱塊が日本近海を取り囲み、水をつたって悪疫をもたらした。水辺の都市は壊滅、海上の行き来は不可能となり輸出入の途絶えた〈その後〉(ザ・デイ・アフター)の世界が展開される。
 厄災後の世界の生々しさは、帯の筒井康隆評にもあるように、ただならぬ熱気を帯びている。
 妙に既視感があるのはSARSによる渡航規制の波及効果報道を思わせるからかもしれない。しかし発表は昨年秋のはず、執筆自体はもっと前のはずだ。先見が廃りに見えてしまうのは巡り合わせの不幸というべきか。
 今ここにある現実の素描に見えてしまうとしても、表現としては評価されていい。小説とはそうあるべきと言われる向きもあろう。
 しかし、物足りなさは残る。巽孝之だったか、SFの近未来、それは現在を描くレトリックだと言ったのは。
 そして現実の現象に未知の要因を外挿、仮構のなかで結論なり解決を導くのはSFの常套手段ではあるが。本作での結末の付け方には、わたしにはどうしても首肯しかねる部分がある。カタルシスを感じない、重苦しい読後感が本作の意図するところだろうし、それは大いに成功しているのだが。

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